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トラブルメーカー

By Jay Watamaniuk

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重火器を備えた十数人のギャングが木々と積もった雪をかき分けて古代の霊廟を再び襲撃しようと現れたと同時に、フリーランサー・ライスは灰色の空から飛び出した。ギャングはまだライスに気付いていない。襲撃を覚悟して霊廟内で身をすくめているアルカニストの研究者たちも同様だ。毎年恒例の急激な気温の低下が冷気と雪をもたらし、弱い人間を狙う略奪者が急激にその数を増やしている。

だが、こいつらはライスがどれだけ過激かを知らない。

ヘルメットの内側で、準備が完了したことを告げる青いライトが灯った。武器の表示灯ならなんだって好きだとライスはよく周りに話していたが、実のところはこの青いライトを一番好んでいるのだった。

「お仕置きの時間よ!」そう大声で告げると、ライスは小さなピンク色のハートで彩られたトリガーを押した。肩に取り付けられたミサイルランチャーが動き、これでもかというほどのミサイルが発射される。

派手な爆発が連続し、土ぼこりとギャングが空中に舞う。

「ドカーン!」ライスは声に出して言った。ギャングたちは散り散りになって逃げていく。マシンピストルをひたすら連射しながら、ライスはギャングが必死の形相で撤退していくのを後押しした。「もう終わり?軟弱ね!別の武器だってあるのに!」

ライスは笑いながらピストルを指に引っかけて何度かくるくると回すと、それをしまった。今日はいい日だ。視界に入るのは緑のジャングルに白い雪、青いライト。研究者が隠れている遺跡へと飛び降りる。

「もう出てきても大丈夫よ!悪い奴らは追い払ったから」

崩れた壁の後ろからゆっくりとアルカニストたちが顔を出す。冷えた手を暖めながら、攻撃は終わったのか神経質そうに辺りを気にしている。他に誰もいないことが分かると、アルカニストらはしぶしぶといった様子で手を振って感謝を表した。

アルカニストらしいわ、とライスは忌々しく思う。手を振り返すと、さっと辺りを見回してギャングが戻ってこないことを確認した。もう安全ね。

「ガディ、聞こえる?」ヘルメットの内部に向けて話しかける。「厄介事は防いだわ。これで任務完了よ」今日は大切な日だ。ライスはこれから始めることを楽しみにしている一方で、少々緊張してもいた。

「ガディじゃなくてガッドだ」彼女のサイファーが精神接続を介してそう答える。ライスは精神接続についてはあまり考えたくなかった。「居住区に伝えておく。いつものことながら、異常に騒がしい仕事ぶりだったよ、ライス」

「ブルーライト・スペシャルよ、ベイビー!」ライスは流れの速い大きな川に沿って飛ぶ。水面に近いため、冷たい水が霧状になって噴き上がる。「ねえ、生意気娘はその椅子の横でうろちょろしてるの?

「“増幅器”な。ああ、すぐ隣にいるよ。ミス・ホープは…すごく楽しみにしている。彼女を繋ぐ準備をする間、二人を短波無線に切り替える」ライスのヘルメットにひび割れた音とジーッという雑音が響き耳が痛む。無線の状態は最悪だった。

「私はうろちょろなんてしてないわ!」ホープがわめきたてる。きっと図星だったのだろう。「おばさんがアルカニストを手助けしてるってサイファー・ガッドが言ったから、それを見たかったのよ!大丈夫だった?」

「絶好調ってもんよ。まだ精神接続の準備はできないの?無線はクソだわ」

「あとちょっとよ!いま繋いでくれる」

「接続準備完了だ」、ガッドが声をかける。

何度か小さな音が鳴り、柔らかなノイズが続いた。接続が確立される。「すごい」、ホープが歓声を上げた。「全体がぼやっとしてる。待って、何!?私、飛んでる!おばさんはいつもこんな景色を見ているの?すっごく不思議な感じね!無線よりもずっといい!」

ライスは呆れたように両手を挙げた。

「おばさん!」

「視界確認オーケー」、ライスが言う。「目的地に向かうまでにちょっとその辺を飛んでみましょ。どう、何も問題はない?」

「うん!実際にそこにいられたらずっといいのに」

「あなたのママはね、初めて私が外に連れ出したとき、曲芸じみた動きはしないでって言ったのよ」

「おばさんに無視されたって文句を言ってたわ」

「当たり前でしょ。友達にセクシーな危険を体験させてあげるのが私の神聖な任務ってもんよ」川は滝に繋がり、落ちた水が氷の霧に変わる。「ああほら」、ライスが無邪気に言う。「朝の日課の時間よ」

「えっ…!??」

ライスは崖から飛び出すとスラスターを止め、そこからひたすら急降下していった。ぐんぐんと速度が上がり、世界が緑と灰色の流れへと変わる。二人は弾丸のように白い霧の中へと突入した。

一瞬ののち、霧から飛び出す。地面が恐ろしい程の速度で迫っている。

「おばさん!」

ライスはすんでのところでスラスターを噴射すると、草を食んでいるコロックスの群れの上で滑らかにカーブを描いた。ジャベリンとコロックスの硬い背中に生えたゴワゴワとした毛との間には、パイ一切れか二切れほどの隙間しかない。

「サイコー!」ライスが叫ぶ。コロックスが鳴き声を上げて抗議している。

「信じられない!おばさんって最高!」

「当たり前でしょ」空高く舞い上がりながら、ライスは風になる。落ちてくる雪の欠片が大きくなっていく。

「私のママってどんな存在だった?」ホープの声は弱々しく、躊躇いさえもが含まれている。「その…おばさんとの友情において」

「あら」ライスは微笑んだ。「大切なことを教えてくれた。別の人生を見せてくれた。あなたやあなたのパパみたいな家族や…安定した仕事を持った人生を。だってエンジニアよ?すごいじゃない」そしてライスは一瞬静かになった。「あなたのママがどうして私に付き合ってくれたのか分からない。将来のことについて何度も言い聞かせるのは大変だったはずなのに」

「どういうこと?」

「あなたのママは辛抱強かった。計画的だったし、いつだって備えがあった。そういうこと。私は正反対」ライスは声をたてて笑った。「あなたのママと初めて会った時のことを覚えてるわ。いまのあなたよりも小さい頃に、学校で知り合ったの。黄色いスカーフを着けてて、それが怪物から身を護ってくれるんだって言ってた」

「おばさんは黄色いスカーフを着けないの?」

「着けるよ。怪物を相手にするのが私の仕事だからね。当たり前でしょ」

「当たり前だね」ホープは同意した。その声は明るい。

「うん。自分の愚かさから何度も救ってくれた。私ってすごい飛び方をすることがあるでしょ?」

「いま見せてくれたわ」

「あの子の子供がこんなに生意気だなんてすっっっごく残念」

笑い声の振動が接続を介して伝わってくるのをライスは感じた。やっぱり無線よりもずっといい、そう思う。ライスは彼女を愛しく思っている。

二人は飛行を続けた。ライスは一つの場所を指さした。グラビットの群れが互いに寄りそうように、霜の降りた長い草を食んでいる。しかしフォート・タルシスには連れて帰れない。ライスはいまにも崩れ落ちそうな石塔の周りをぐるりと飛んだ。月日とともにひびの入った両開きの扉が好奇心を誘う。巨大な具現者の構造体の上空をホバリングする。構造体は寒さで凍えた金属の蛇のように地面の上にとぐろを巻いている。

「本当にすごい」、

感動した声でホープが言う。「この素晴らしさが口ではなかなか説明できないの。みんな理解してくれないか、理解したがらない。でもあなたのママは分かってくれた」

「どうしていままで見せてくれなかったの!?」

「それは…そうね、全部を完璧にしたかったの。ああ、いいタイミング。見て、あっちにあるのがハンマートップ山脈。あそこに向かってるの」

「登るの?」

「登るんじゃなくて、通り抜けるの。超秘密のトンネルがあるんだ。私たちをイースタン・リーチのいちばん端っこまで連れて行ってくれる。そこで巨大な…すごいものを見せてあげる。“魔法の雲の地”って言うの。間違いなくバスティオンで最高の景色よ」

「“魔法の雲の地”?」

「そう。正式な名前がそれ」

「へえぇ」

「もっといい反応してよね」

凍てつくような霞が、分厚い毛布のように山の裾にかかっている。近付くと、霧の中にぬらぬらとした光の束が見えた。何かしら?ライスはホープを心配させたくない気持ちから、その考えを自分の内に押しとどめた。おそらくあれは拠点だ。ライスは人間の動きを捕捉していた。いったい誰が私の秘密の場所に居座ってるの…?

と、爆発で体が横に吹き飛ばされた。一瞬意識が遠のく。そして耳の内側でくぐもった音が鳴り響いた。ジャベリンが制御不能になって回転し、そのまま落下していく。ライスは呻きながらスーツを再接続した。シールドが消失している。反応が鈍い。スーツの左側は黒焦げで、紫色の炎の塗装が消えてしまっている。

これにライスは苛立った。「塗装してもらったばっかりなのに!」

歯を食いしばりながら、ライスは一度、二度とスラスターに点火する。スラスターが動き出し、落下が止まった。胃がひっくり返る。くぐもった音が叫び声に変わった。

「…聞こえる?どうした?ねえ…!」

「聞こえてる!大丈夫よ」ライスは高度を下げて霧の中に飛び込むと、地表近くを飛んだ。曳光弾の赤い光がいくつも凍った木々や地面の間をすり抜けた。「もっとギャングが出てきた。ムカつく奴らよね」

銃弾が連続してライスの胸の装甲に当たって跳ね、氷霧の中で断続的に光を浮かび上がらせた。ライスは前に後ろに猛スピードで飛ぶと、苔むした大きな岩の後ろに勢いよく着地した。岩の両側を照らすサーチライトで視界を半分奪われながらも、ライスはいくつかのことを理解した。彼女が使おうとしていた洞窟の入り口の前に拠点があったのだ。大規模な拠点が。バリケードに物資、それから大量の銃が見える。超秘密のトンネルを、奴らは本部のようなものとして活用しているのだ。

「大きな間違いね、悪党ども!」

ホープの声が耳に届く。「おばさん?」

「ちゃんと聞こえてる。おばさんはちょっと洗濯物を片付けなきゃいけないけど、すぐに終わるからね。おとなしく座ってて」

「え、なに?待って!私にも…」

ライスはホープの接続を切った。最悪だ。こんな銃撃戦ではなく、今日はステキなことで一杯にするはずだったのに。あのふざけた連中のせいだ。

ライスはピストルを取り出すと、目を眩ます光の向こうへ弾を撃ち込んだ。「ちょっと、今日は大事な用事があるんだけど!」彼女は叫んだ。ギャングからの返事は弾だ。彼女の大事な用事なんて関係ないらしい。「いかにもね!」

ピストルが弾切れのむなしい音を立てた。その間にも、盾にしていた岩が容赦ない銃撃で削られていく。ここには留まれないが、一瞬を割いて観察した。すぐ前、洞窟の入り口にギャングの本隊が固まっている。素早くピストルを元に戻すと、もっと大きな得物を取り出した。銃ではない、電撃をまとった彼女の剣、ネリーだ。

「よし、ネリー!」

彼女はサーチライトを飛び越えると、後先考えない速さで、ギャングとの距離を一気に詰めた。そして集団の真ん中目掛けて、ネリーを大きく振るった。「食らえ!」生み出された衝撃でギャング達は吹き飛ばされ、満足できる音を立てて入り口の壁に叩きつけられる。何かが膝にあたるのを感じ、彼女は地面に倒れた。トンネルの中から弾がいくつも飛来し、リズミカルに音を立ててアーマーを掠めていく。彼女は身を引きずり起こすと、グレネードを前に投げた。炎をまとった爆発で大勢のギャングが待ち構えているのが見えた。やる気は十分なようだ。「悪くない抵抗ね!100点満点中60点!」奥から、憎しみを込めた弾丸がさらに飛び出してくる。「そうこなくっちゃ!」混沌とする中で彼女はピストルの弾倉を換えた。たくさんの弾の相手にはさらにたくさんの弾だ。その時、ヘルメットの中で低いノイズに続いて音がした。

「…勝手に切らないでよ!どうなってるの?ギャングって言った?なんで燃えてるの?」

「ホープ?」銃弾がヘルメットを掠めた。「どうなってるの!?」

「怪我してる!?」ホープが耳元で叫んでいる。「どうなってるか教えてよ!」

「大丈夫!切るわ!」彼女はホープとの接続を切った。またです。そしてサイファーとのラインを繋いだ。「ガディ、あの子に繋がせないで!こんなの見せられない!」言い切るたびに、トンネルの奥へピストルの引き金を引きながらだ。

「彼女はとても…」、ガディがなにやら言い始めている。

「とにかくやって!」またグレネードを中に放る。洞窟に入ってすぐの場所を爆発の振動が揺らした。「試合開始よ!」彼女は洞窟へと飛び込んだ。大量の銃弾が出迎えてくれる。

ピストルを仕舞うと、ショットガンを取り出した。一気にぶちまけたい時は、ミス・ビスケットにかぎる。前に出て敵の反応がなくなるまで引き金を引き続けた。彼女のお得意の戦術だ。オイルと焦げたフリーランサーの臭いがする。彼女は大股で岩の通路の奥へ疾走した。

ミサイル!

かろうじて右に回避し、飛翔体の群れが横をすり抜けていく。「洞窟に砲台を置いてるの?危ないじゃない!」通路を抜けた先は、自然が作り出した大きな広間だった。前に来たときは、所々、光る苔が生えているだけでそこは闇に包まれていた。今は錆の浮いたバリケードとあり合わせの品でできたサーチライトが並び、ガスの炎が広間全体を禍々しいオレンジ色に染め上げている。「ふざけた奴ら」、数か所から銃撃を浴びせられ、彼女は声を張り上げた。「でも気合が入ってるじゃない。100点満点中80点かしら?」

金属の廃材の山に身を隠すと、周りのすべてに銃弾が叩きつけられた。あたりを見回した彼女は、良い教訓のねたになりそうなものがあることに気づいた。教官に言われても治さなかった片眼をつむった照準で、ガスタンクに向けて弾を放った。シューッ… ドカン!

それが合図だ。

彼女は中間地帯を一気に駆け抜け、勢いのままバリケードを突破し、驚愕しているギャングの集団に飛び込んだ。

狭い空間で、ガントレットの腕を大きく振り回して二人を叩きのめし、同時に片手でミス・ビスケットをぶっぱなした。「本物の悪党を名乗るなら、次から爆発物は片しておくことね!」小さな物体がコツンと脚に当たった。グレネードだ!もとに来た方向に壁を飛び越えるやいなや、衝撃が構造物を揺らした。

ビリリッ!

いくつも警告灯が点滅しているが、ライスは無視した。スーツの状態は良くない。温かい血が内張りを濡らしている。彼女自身の状態も良くないようだ。聞き覚えのある低いノイズが耳に聞こえた。

「フリーランサー・ライス。考え直した方が…」

「イヤよ!さあ行け、クリムゾン・ランサー!」

「ライス…」

「ではまた来週!」

あのミサイル砲台にたどり着かないとならない。バリケードをいくつかかき分けてから、彼女はスラスターに点火して飛び上がった。少し朦朧としてきている。

「気の利いたセリフが思いつかないじゃない!」それが気の利いたセリフであるかのように彼女は叫んだ。砲台が反応してミサイルをさらに吐き出し、トンネルの壁をかすめて起きた爆発に巻き込まれて、彼女は激しく地面を転がされた。肺に酸素を送り込もうとはげしくあえぎながら、彼女は洞窟の壁に背を付けた。ギャングの集団が砲台を盾に使っている。「絶体絶命のピンチ!サイコー!」

動作可能を告げる青いライトはどうなっている?消えている。

「ちょっとブルーライト?応えてって」

砲台が回り、狙いを付けてきた。視界が周りで跳ねる銃弾の火花に占められていく。どこもかしこも警告灯だらけだ。弾が生身を切り裂いた。

「クソッ、ブルーライト!」

ポン。ブルーライトだ。

「お仕置きよ!」トリガーを叩きつけると、肩からミサイルが一斉に放たれ、扇状に広がって降り注いだ。そして生み出されたのは赤く燃える半月。この爆発が大好きだ!ライスは壁に背を押し付けると、敵からの返答に備えてミス・ビスケットを構えた。息は荒い。そして煙が薄れると、残っていたのは消えかかった小さな火達と黒焦げた地面、ギャング達のなれの果とひしゃげた金属の塊だけだった。彼女の血がスーツの前面を濡らしている。肩に手を押しあてた。「直したばっかりだったのに」

そしてトンネルの壁に身を預けた。「今日はみんなよくやったわ」耳を澄ませながら、数十センチほどよろよろと進む。何も反応はない。ギャングはいなくなった。咳が出てくる。「回収はまた明日ね」

「フリーランサー?」声が伝わってくる。

「無事よ、ガディ…じゃなくてガッド。超秘密のトンネルは片付いた。ホープは問題ない?」

「混乱しているが問題ない。再接続したがっている」

「ちょっと待って」

凍ったツタと苔に覆われたトンネルの残りの数歩を抜けると、出た先は風の吹き抜ける幅の広い岩棚だった。切り立った崖の下に低い雲海が広がり、見渡す限り地平線まで続いている。“魔法の雲の地”だ。

「いいわ、あの子を繋いで」ポンという音と、柔らかなノイズ。

「…いやよ!今すぐおばさんに…なに?…うわ、スゴイ」ホープの怒りはかき消えた。

「見える?」ライスは尋ねた。

「うん。どこまでも…続いてる」

「約束通り、バスティオンで最高の景色よ」ライスは落ち着かなげに足を揺すった。「あのさ、さっきはゴメンね。ただ、あなたには…」

「あなたには…なに?」怒りが戻ってきた。「まだ早い?私をただの子供扱いしてるの?」

「違う。そうじゃない。今日はステキなものだけを見せたかったの」彼女は呻きながら座り、崖から脚をブラブラさせた。「この場所とかね。あなたのママのお気に入りだった」

「ママはもう死んじゃった」、ホープが鋭く返した。「あの病気のせいで…あたし何もできなかった」

「分かってる」ライスは胸が締め付けられた。「悪かったわ」

「なら、隠すのはやめて。もう一番酷いことは知ってるんだから」

「ホープ…」

「ママは怖がってた。知ってる?」言葉の裏に怒りが見え隠れしている。「おばさんが危ないことばっかするから。でも、おばさんは普通じゃなくて…どんな危険でも、どんな恐ろしいことでも全部愛してた。“イカれた人生の喜び”」

「ママがそう言ったの?」

「いっつもね」彼女の怒りが引いていった。「どうやったらそんな生き方ができるのか…」、声が震えている。「今日はそれが知りたかった」

ああもう、この子ったら。ライスは崖の上で体を前後に揺らした。どこまでも続く谷から雪が舞い上がる。風は刺すように冷たかった。目の覚めるように澄んでいる。

「分かった」ライスは告げた。「約束する」ゆっくりと立ち上がると、体とスーツが悲鳴を上げる。「それで…前に通り過ぎたあの塔に立ち寄ろうかと思って思ってたんだけど。ほら、あの扉が付いてるやつ。興味はある?」

「え?まさか!だってもうフラフラじゃない。“馬鹿な飛び方”はやめて」

その声と話し方は痛いほどに似ていた。

「確かにそうね」、ライスは答えた。「戻るわ。包帯でも探しましょ。それとパイも」

「うん賛成」

「けど、次はあの不気味な塔を絶対探索するわよ。私とあなただけで」ライスはつけ足した。

「怪物はいるかな?」ホープが聞いてくる。

ライスは躊躇った。「たぶんね」

「でも大丈夫よ」

「へぇ?」

「黄色いスカーフがあるもの。当たり前」

「当たり前ね」ライスは笑った。


ライスをこの世に生み出してくれた、Cathleen Rootsaert、Mary Kirby、Jeffrey Campbell、Ryan Cormier、Karin Weekes、Danielle Gauthierに感謝をこめて。


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